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きっかけの旅 *里山の暮らし*


静岡県で「里山の暮らし」を営む庄子妙絵さん。ご主人「たっちゃん」やご近所さんたちとの日々の出来事をときどきコラムに綴ってくれています。今回は、妙絵さんが現在の里山生活を始めることになった”きっかけ”のひとつとして大切にしている思い出、「オレゴン州の旅」についての回想記です。


私たち夫婦が現在の里山暮らしをするようになったのには、あらゆる出来事や人との出会い、今までしてきた全ての体験から「たくさんのきっかけ」のようなものがあって、それらが徐々に私たちをこの暮らしへと導いてきたと思う。その「たくさんのきっかけの一つ」とも感じている心に残る旅がある。


20代の後半、私は東京で英語を教える仕事をしながらセカセカと忙しく楽しく暮らしていた。そんな時に仕事でオレゴンに行く機会があった。今思えば、この旅は今の暮らしをするに至る「たくさんのきっかけのうちの一つ」になるほど、自分に影響を与えた旅となる。


今回は、その「オレゴン州の旅」のお話。


27歳の夏、仕事でオレゴン州の南、ジャクソンビルという町に2週間滞在した。滞在期間中はホームステイでエバーソンご夫妻のお宅に滞在することになった。私を快く受け入れてくださったご夫婦のお宅はジャクソンビルの町から車で10分ほど離れた丘の上にある、ご夫妻自らがゼロから建てた石造りの家。外から見るとお洒落なレストラン、はたまた宇宙船のようにも見えるその家は、実は環境に優しいエコハウスだった。細かいディテールもアート作品のようで、お二人の知恵や工夫、そして自然に対する想いが詰まった環境に優しいエコハウスであった。




大きな窓は、一日中太陽光が入るように設計されている。


キッチンも可愛らしく、ちゃんとプラクティカルに作られていて、作業台の丸テーブルの下は収納スペースがたっぷり。ビョーン(夫)の手仕事はまるでプロの家具職人のようで、デザイン、機能性、材質にもこだわりがある。




倉庫の上のソーラーパネルで電力を蓄電し、雨水を溜めるための大きな水瓶タンクもある。


ジャクソンビルの真夏はなかなかの灼熱になるが、土壁で覆われた家の中は日中でも涼しく、夜は肌寒い程であった。トイレはコンポストトイレになっていて、ウッドチップで分解するような仕組みになっている。

家の隣には、作業小屋があり、その下にはヤギの小屋と鶏小屋がある。


毎朝起きると、セシル(妻)はヤギの乳搾りに行く。朝ごはんは、しぼりたてのヤギのミルク、とれたての卵と野菜のオムレツ、そしてヤギのヨーグルトがかかったグラノーラ。ヤギのミルクはくせがなく、オムレツもヨーグルトもフレッシュでホームメイドのお味を美味しくいただいた。







ビョーン(夫)の朝仕事は鶏小屋で卵を拾い、「Bird Bird Bird Bird!!」とニワトリたちを追いながら広い敷地に放し飼いにする。夕方になると彼はまた、「Bird Bird Bird!!」と掛け声をかけながらニワトリたち呼び集め、小屋に誘導する。鶏たちは、よく彼の呼び声に反応しちゃんと帰ってくる。^^






敷地内には野菜の畑があり、レモンやプラム、ぶどうなどの果物の木もある。


この家には、アメリカの家庭に必ずあるような乾燥機やディッシュウォッシャーがなかった。洗濯は日当たりの良い場所に干し、食器は節水のため夜に一回だけまとめて洗う。


セシルは言う、「オレゴンのヒートはあっという間に洗濯を乾かしてくれるのよ。」




セシルはヤギのミルクでチーズやヨーグルトを作ったり、絶品のバナナブレッドを焼く。ビョーンとはよく敷地内を散歩した。散歩中ビョーンは色々な話をしてくれる。畑や敷地内の動植物などの話、家づくりの話、オレゴンの山火事の話、若い頃のヤンチャな話^^。


自宅の2階には「Library図書館」があり、あらゆるジャンルの本があった。


ビョーンは言う、

「今僕は、5冊の本を同時に読んでいるんだよ。気分に合わせてシェークスピアを読み直したり、物づくりの本を読んだりってね。」



リビングには、グランドピアノが置かれていてご夫婦ともピアノを弾く。

ビョーンは言う、「セシルは譜面を忠実に弾くタイプで、僕は譜面は見ないタイプなんだ。」




二人と2週間一緒に暮らす間、ビョーンと居るときもあればセシルと過ごす時もあった。二人ともそれぞれに楽しく、干渉する事なく過ごしている。本を読みたいときに読み、ピアノを弾きたいときに弾き、土いじりをしたいときにする。でも夕飯は必ず一緒に食べ、会話を楽しむ。



ある日、ビョーンとセシルがどうしても連れて行きたいところがあると、3時間ドライブしてジャイアントセコイアの森、レッドウッドフォレストに連れていってくれた。



樹齢何百年、古い木で1000年という巨木の森は、生まれてこの方見たことのないスケールの森であった。圧倒的な木々の大きさ、一本一本が恐竜の足のよう。大きな木の下には、シダが繁り、地面はフカフカのじゅうたんのような苔で覆われている。バナナのように黄色い、その名もバナナスラッグ(ナメクジ)がいた。近くには大きな川も流れている。森の中はヒンヤリ湿度が高く、ミストがかっていて水分豊富な森であった。映画の中でしか知らないが、恐竜の住むジュラ紀の森を連想した。この巨木が1000年と言う月日をそこにたたずみ、世の中を見て来たかと思うと、感動とリスペクトする気持ちが同時に湧き上がる。


「連れてきてくれてありがとう」っとこの森に会わせてくれたビョーンとセシルに感謝をした。


この夏、オレゴンでこの夫婦と過ごした時間は私の中で色濃く残る印象的な旅であった。

この夫婦の素敵な関係性と環境に優しくシンプルな暮らし方が強く心に残った。


私の奥底に常に思っていた「自分がこうありたいと思う気持ち」がくすぐられたような気がした。


彼らほど器用に色々と作ったり追求することは出来ないかもしれないが、自分なりの自然に優しく、そして楽しい暮らし方を追求してみたい。



オレゴンから帰国し、私は大興奮でたっちゃんに体験を話した。こんなに素敵なご夫婦に出会い、こんなに素敵な暮らし方をされていた。それだけではおさまらず、やはりどうしてもこの夫婦に会って欲しい、彼らの暮らし方を見て欲しいと、翌年たっちゃんをこの夫妻の所に連れて行くのであった。






私たちが里山生活をスタートするのは、それからまた9年も後になるけれど、里山生活を導いた「たくさんのきっかけのうちの一つ」となった旅に間違いはないと思っている。



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