みずみずしい旬のフルーツを味わったり、丁寧に淹れたお茶やコーヒーを味わったり、コトコトと時間をかけて煮込んだスープを味わったり。意識を目の前の食べ物に集中して、目で、香りで、音で、そして舌の感触を使ってじっくりと味わう、特別なひとくち。じっくりと味わう瞬間は、わたしたちが「今この瞬間に感じること」を、身体の感覚を通して正直にストレートに体験するマインドフルネスな瞬間です。
子どもたちは、美味しいものを食べると、満面の笑みを浮かべて身体をクネクネと自然に動かしてその喜びの表現をすることがあります。そんなふうに、今感じている喜びをじっくりと味わう瞬間は、私たちの心を満たしてくれる幸せホルモンを分泌させる行為です。
シカゴのロヨラ大学社会心理学教授のフレッド・ブライアント博士は、この「じっくりと味わう瞬間」を、食べる行為以外の日常の出来事にも応用して、日々の生活の中に幸せの瞬間をもっと増やしていくリサーチしました。どんなふうに応用できるのでしょうか。4つの「味わう瞬間」をご紹介します。
1:期待しながら待つ瞬間
イベントを計画して、それを楽しみに待つ瞬間をじっくりと味わいます。たとえば、数ヶ月後に予定している旅行の計画。何をしようかな、どこで食事をしようかな、何を着ようかな・・・リサーチをしながら計画を立てている時、実は意識の中であなたはすでに旅行を楽しんでいるかのようなワクワク感を体験しています。計画することを面倒くさがったりするのではなく、計画しているその行為自体をじっくりと味わって楽しんでみます。
これは日常の小さなことにも応用することができます。たとえば、労働の後の一杯を楽しみにすること。洗ったばかりの清潔なシーツに包まって、眠る前に読む本を楽しみにすること。湯船に浸かって身体を温めた後、ゆっくりと身体をマッサージする時間を楽しみにすること。週末に時間をかけて作る料理の時間を楽しみに献立を書き出したり、気持ちのいい場所で深呼吸する時間を楽しみにすること。日常の中にちょっとした良い瞬間を散りばめて、その時間を楽しみに待つ行為は、楽しみにしているその瞬間から味わって自分を元気にするという、とてもいい効能があります。
2:味わって感謝する瞬間
道端にさりげなく咲いている野の花の可愛らしさに気が付いたり、風に乗って香ってくる季節の匂いを感じたり。または音楽に癒され心が動かされたり、誰かとのさりげない親切な会話によろこびを感じたり。日常の中にある、ささやかだけれど美しいものやその瞬間に意識をのせて、感謝してじっくりと味わいます。忙しい中で気が付かずにスルーしてしまうような瞬間を捉えてじっくりと味わうことは、生活の中のほんの一瞬にマインドフルネスを行う貴重な時間です。
3:回想する瞬間
人生の中で時折り、「この瞬間を切り取ってフレームに入れておきたい!」と思えるような、純粋な悦びと楽しい瞬間が訪れることがあります。前回のバケーションのワンシーンかもしれないし、気のおけない友人たちと過ごした時間かもしれないし、子どものあどけない瞬間であったり、ペットの可愛らしい様子、または素晴らしい景色をみて感動した瞬間など、心に残る特別な思い出の瞬間。過去のそんなポジティブな出来事を回想すると、まるで今その瞬間を再体験したかのように、幸せホルモンが分泌されます。写真を見返したり、当時の日記やスケジュール帳をもとに思い出を辿りながら、特別な思いでを振り返りじっくりと味わいます。
4:共有する瞬間
誰かと共に過ごした特別な時間を思い出すとき、心が温かくなったり懐かしさを感じることがあります。人は年齢を重ねるごとに、量よりも質の人間関係を大切にするようになる傾向がありますが、それぞれがさまざまな事情を生きる中で、忙しい中でも時間を作って会おうと決める時、それは一期一会の貴重な時間です。またとない瞬間を共有しているのだと静かに意識してしっかりと味わうことで、また特別な思い出が増えて人生の豊かさを感じることができます。
以上、「じっくりと味わう瞬間」の例を挙げてみました。
あらためて思うのですが、じっくりと味わう瞬間は、自分自身で意識することでしか、体験することができません。たとえばお金を使っていいものを買ったとしても、それをしっかりと味わうこと意識しなければ、食べ物でもモノでもすぐに特別感が消えてしまいます。じっくりと味わうことは、目の前で起きていることやモノを五感を通してしっかりと感じて、自分の体験として記憶に残していくエクササイズ。そうやってその人の人生は、豊かになっていくのかもしれないと感じます。
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