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春のお祭り *里山の暮らし*

静岡県で「里山の暮らし」を営む庄子妙絵さん。ご主人「たっちゃん」やご近所さんたちとの日々の出来事をときどきコラムに綴ってくれています。今回は、地元集落の春のお祭り担当になった妙絵さんの「お祭り準備体験記」です。



3月はじめの日曜は、地元の「立石稲荷」のお祭りの日。


集落の一番奥、山が始まる入り口にある大きな岩の神様「立石稲荷」は、代々この地区の人々に大事に守られてきた。


立石稲荷までは、我が家から歩いて5分ほど。集落を奥にずんずん進み、林を少し登っていく。





右側に鳥居があり、石の階段を登る。





すると、ゴジラの頭のような大きい一枚岩の立石稲荷がお目見えする。


山の入り口のこの場所は、木や土のにおいが濃く、ケモノ臭も香る。温度もひんやりとしていて私たちの住む里の集落とは雰囲気も変わる。


初めてお祭りに参加させてもらった年、


「立石稲荷は、商売繁盛、大漁祈願のご利益があって、昔からサバを上げるんだよ。昔は焼津の漁師や島田の芸者さんもお参りに来ていたんだよ。」


と教えてくれた。集落20軒で祝うお祭りなので、大きなお祭りではないけれど、暖かくなり始めた頃にみんなで集まり「今年も一年よろしくお願いします。」っとお稲荷さんにお参りをし、おでんを囲み一杯やりながら談笑する時間は楽しい。赤いほっぺのご機嫌な長老たちをお相手に過ごす時間もとても微笑ましい。


今年我が家は、引っ越してきて7年目にして初めての「当番」のお役。一年前からおでん作りを頑張るぞ〜!と意気込んでいたのに、コロナの影響で食べ物を振るまうことも、密に集まることもできなくなってしまった。


一緒に当番をするお隣にどうしたもんか。。。と相談をする。お隣は、この地区のベテラン、頼れる存在。


お隣さん:

「*おんくんさんは、おでんやおこわはムリだから、持ち帰れるお饅頭をお店で頼もう。おふだも刷らないとだね〜。あと、子供たちのお菓子も詰め合わせにして用意しよう」


*おんくんさんとは:この地区の「お供物」の言い方。


さすが、お祭りを何度も経験されているお隣さんはテキパキと指示をしてくれる。


始めの作業は、お札を刷る作業。晴れた日の午前中、よく陽の当たるお隣さん家の縁側でお札を刷る。

「正一位立石稲荷大明神」と掘られた木彫りの型には明治24年と記載があった。年季の入った分だけ、代々集落の皆様に刷られてきたと思うと、改めて気合が入る。同時に、刷りながら自分もその中に新参者ながらも入った!という感覚があり嬉しい気持ちにもなった^^。




集落の年長者たちは、お祭りの際に古いお札を返し、新しいものをもらい、お財布に入れたり、神棚にあげたりしている。私がこうして刷ったお札に、お参りに来るご近所さんたちの願いも込められると思うと、「丁寧に丁寧に〜」と作業の手がより慎重になる。



数日たって、再びお隣さんがやってきて、


「これ作ったの見て。どう思う?」っと、見せてくれたのは、お饅頭を入れるおんくんさんの袋だった。A4の紙でキレイにのり付けして折られた袋に、真ん中にお供物の印が押されている。





私:「なんとも丁寧な。すごい!これ、本当に神社でもらう袋みたい。」


お隣さん:「よく、おばあさんのお薬袋を同じように作っていたから、この紙うちにたくさんあるのよ。このお供物の印鑑も、せっかくお祭り箱に入ってたから使ったら良いかなと思ったのよ。」


ついでに子供たちのお菓子用の袋も作ったと見せてくれたのは、包装紙やカレンダーなどを使って丁寧に折られた可愛らしい袋だった。袋の外側にちょうど絵が出るように折られていてヒモも付いている。





私:「かわいい〜とっても良いよ〜🌟」


お隣さん:じゃあ、これを子供達のお菓子用の袋にして、30個一緒に作るで良いにしよう。


そうして私はお隣さんに袋の折り方を教わりながら、使ってないカレンダーで袋を一緒に作った。





なんでもかんでも買うのは簡単なこと。でも、あるものを工夫して丁寧に手作りをした方が気持ちはより込められるよな〜❤︎





お祭りの日の朝は、少し肌寒い曇り空。「雨が降るよりはましだね。」と言いながら最後の準備をし、後はお参りの皆様を待つだけ。


お隣さんは、畑で育てたパンジーの苗を小さなポットに入れ、カゴいっぱいにして持ってきた。

「これ、お参りに来た人にあげようね。」


私:「わ〜パンジー可愛い。みんなきっと喜ぶね〜^^。」と、お隣さんのホスピタリティ精神には、ただただ感動するばかり。


ご近所さんたちは、朝ごはんを終えた時間あたりから続々とお参りに来始めた。みんなONマスクで、「お久しぶり〜」、「どうしてた〜?」と始まる。


お参りが終わった方から、談笑しつつおんくんさんとおふだを渡し、パンジーも持っていってね〜と勧める。


長老たちもゆっくりと石の階段を上がって来られた。

こちらは「ごめんよ〜今年は一杯できないのよ〜」と一言、それに対し「しょんない、しょんない」と笑顔で返してくれる。

「来年こそは、盛大に出来るといいね〜。はい、これおふだ。ご利益がありますように。」


ちょうど、お稲荷さんのある場所は地元のハイキングコースのルートとしても人気なので、日曜ということもあり、ハイキングの方々もお参りをしていってくれた。お当番の私たちは、立石稲荷のことや毎年この時期にお祭りをやることなどの説明をしていた。

お隣さんと、「なんだか観光案内しているみたいだね〜」と言いながら。^^


午後2時を過ぎると集落のご近所さんたちのお参りもぼちぼち終わる。


「そろそろ撤収開始いたしますか。」っと、片付けを始めた。


夕方全てが終わり、お隣さんと「大変お疲れ様でした。無事終わってホッと一安心だね〜。」とお互いを労い合った。


家に帰り、お茶とおんくんさんの福丸まんじゅうで一息入れながら、


「いいお祭りだったね〜福丸美味しいね〜」と、たっちゃんとお祭りのあれこれの楽しいフェードバックをした。そして心地良い疲労感がめぐる。




この地域で暮らしていく中で、こうしたお祭りは一年のうち何回かある。お祭り前に、集落のみんなで神社やお地蔵さんとお祭りをする付近のお掃除をする。キレイに草刈りされ、壊れているところは直し、メンテナンスされる。そしてお祭りも、コミュニティで手作りで開催される。これは、何代にもわたって昔からこうして守られてきた伝統文化であるんだな〜としみじみと感じる。お当番として関わって初めて、心を込めてお祭りを作り上げていくことも体験できた。


自分の住む地域をみんなで守り、協力し繋がりながら、里山の自然とコミュニティを守っていく。改めて、里山のコミュニティの暮らし方みたいなものをまた教わった気がする。




       (パンジーは、お隣さんから最後にいただいたもの。我が家の入り口に植えた^^。)




妙絵さんが心にも体にも優しい「里山の暮らし」に辿り着いた経緯についてインタビューした記事はこちらです。よかったらご覧ください。「東京&アメリカ生活を経て、里山の暮らしへ」



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