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ある隣人との出会い

  • 5月2日
  • 読了時間: 8分

更新日:6月3日


寒さと暖かさがいったり来たりするこの時期、現在住んでいるオーガニック建築のコミュニティRush Creek Villageも、新緑が生き生きとする美しい季節に入りました。


冬の間はしんとして寒々しい様子だった森も、今ではさまざまな鳥の声が響き渡り、小動物たちが活動する姿が見られます。この季節ならではの草花がキラキラと輝く小道を歩きながら大きく深呼吸。小さな自然の中で暮らしている喜びを、まっすぐな気持ちで感じられる心地いい季節です。


暖かくなってくるとご近所さん同士の交流もより活発になります。しばらく顔を合わせていなかった人々と散歩の途中で偶然会う機会が増えたりして、おしゃべりに花が咲きます。



アメリカでのご近所さんとの関わり


地域にもよりますので、絶対にこうだと断言はできませんが、基本的に個人主義文化のアメリカでは共同体での縛りは少なく、ご近所の中で「皆が参加しなければならない」といったような活動は滅多にないと感じています。住宅街においての共同スペースなどの管理やお掃除は業者に任せることが多く、住民同士はプライバシーを尊重しながら適度な距離で付き合うのが一般的です。


でもだからといって、ご近所付き合いがないというわけではありません。実際には、アメリカの住宅地ではご近所付き合いがとても重要なのだと感じています。私自身、これまで幾つもの異なる都市で一軒家やアパートメントなどさまざまな場所に住んできたのですが、その経験から、アメリカではご近所付き合いが予想以上に大事なのだということを学びました。というより、大事にすることで、自分の生活が豊かになるという捉え方がより正確かもしれません。


たとえば、ご近所さん同士で行き来し合って交流を深めたり助け合ったりする中で、自然と友人関係が芽生えることもあります。物を貸し借りする中から与え合う中に発展し、さらには週末やバケーションを一緒に過ごすような仲になることもあります。


なぜこういうことが起きるのかと考える時、そこには「響き合う」という現象があるからなのかもと感じます。たとえば、住む場所を慎重に選ぶとき、そこには「響き合う」感覚があるかと思います。家や土地と自分が響き合った上で住む場所を選んでいるのだとしたら、同じ場所を住居として選んでいるご近所さんたちとも、何らかの形で響き合っている可能性があるわけです。


そんなわけで、現在住んでいるRush Creek Villageでも、ご近所付き合いは比較的大事にされていて、近所の方々と親しくなり、共に時間を過ごすことも多いです。



チャック氏との出会い


アメリカでは、引っ越してきた人がご近所に挨拶回りをするのではなく、すでに住んでいる住人が越してきた人に「ようこそ!」と声かけに行くのが一般的です。


数年前に私たちが引っ越ししてきた際にも、ご近所さんたちが変わるがわるやって来て、「ようこそ!どこから来たの?」と、ご挨拶を受けました。その中で、よく熟れた桃を袋いっぱいに抱えていらっしゃったのが、お隣に住んでいるチャック氏です。


チャック氏は80代半ばの男性で、柔らかい笑顔で非常に滑舌良く話されるのが印象的な方でした。ここに住んでもうすぐ60年という長老で、地域についてさまざまなことを教えてくださいました。長年連れ添った奥様をつい最近亡くされたそうで、「妻はとても素敵な人でした。あなた方も彼女に会うことができていたら、きっと好きになったと思いますよ。」とおっしゃり、寂しそうなご様子でした。


いただいた桃は、桃の産地であるジョージア州の農家から取り寄せたもので、とっても甘くてジューシー。チャック氏のこだわりを反映している、心のこもった手土産でした。この方は何か特別な深みと魅力がある。そう感じたことを覚えています。


その後、別のご近所さんたちからチャック氏にまつわるさまざまな話を聞きました。地元で愛される有名なニュースキャスターだったこと、黒人として初めてこの地域でTV局員になった人であること、そしてなんと、エミー賞を3回も獲っていること、などなど。


聞けば聞くほど興味深い功績が出てくるチャック氏。ご本人からいろんなお話が聞きたくて、我が家にもご招待しました。


さすがニュースキャスターだっただけのことがあり、チャック氏の語りは、まるでドキュメンタリー番組のよう。さまざまな人生経験を話してくださった中で何よりも印象的だったのは、60年以上連れ添った白人の奥様のことでした。



人種におけるアメリカ社会


お二人が出会って恋に落ちた今から60年前のアメリカでは、混血結婚は16の州で違法とされるほど、厳しく扱われていたそうです。とくに黒人&白人カップルに対する風当たりは強く、迫害を受けるなどの困難は珍しくなかったようです。


さらに、チャック氏には前妻との間に一人の息子さんがいました。親権は100%チャック氏に合ったようで、シングルファーザーで黒人であるチャックさんとの結婚を、白人の奥様のご両親は大反対したそうです。でも二人は諦めませんでした。


熱心に懇願する二人に奥様のご両親が下した決断は、二人を半年間引き離すことでした。彼女を別の州に住む親戚の家に引っ越しさせて、離れて半年後もまだ一緒にいたいと思ったのなら結婚を許す、となったそうです。引き離された場所は現在のように簡単に行き来ができる距離ではなく、当時は外国並みに遠い場所だったのですが、そんな試練を乗り越えて二人は愛を確かめ合い、結婚に至ったそうです。


でも困難はさらに続きます。当時は混血結婚の二人を結婚させてくれる教会も、住まわせてくれる家もなかなか見つかりませんでした。今では想像できませんが、当時のアメリカは、白人以外に選挙権すら与えられていませんでした。黒人の選挙権が認められたのは1965年。日系人においても1952年まで正式には認められていませんでした。アメリカという国において、人種を跨いだ平等意識を持つことが一般的になったのは、そう遠くない昔のことなのです。



オーガニック建築の家での人生


そんな中、1954年、チャック氏の住むこの地域にオーガニック建築のコミュニティーRush Creek Villageが立ち上がります。人種に関係なく家の購入を認めるイデオロジーを掲げた、当時としては変わった人たちが建て始めた手作りのコミュニティーです。友人からその話を聞いたチャック氏は、絶妙なタイミングで現在の家に「出逢った」のでした。


Rush Creek Villageは、フランクロイドライトの建築思想に共感した地元の建築家によって創設された、約50軒の家々からなるコミュニティーです。人種や宗教による制限(差別的な条項)を一切設けないことを原則としました。「ここで実践している唯一の差別は建築上のものだけだ」というユニークなモットーにより、当時は家の購入ができなかった有色人種(黒人やアジア人など)の人々を快く受け入れました。


チャック氏によると、当初は「変人たちの住む住宅地」というあだ名がついていたそうです。それもそのはず、オーガニック建築とは、土地の景観を尊重した形で家を設計する、自然、人、建物、環境が調和して一体となることを目指した建築です。家のデザインが特徴的なので、「変わっている」という印象を与えます。また、そんなヒッピー的な自然主義思想に共感した人々が住んでいたこともあり、当時の保守的な価値観からすると、「変人たち」というあだ名がついてもおかしくなかったのでしょう。


でも、テレビ局のニュースキャスターとして活躍しながら、同時に創作活動も探求していたチャック氏にとって、ここは自分をありのままに受け入れてくれる場所だったようです。彼の邸宅は森の中にありますので、毎日のライブ中継でのストレスを癒す特別な空間として、とてもよく機能していたようです。その後、奥様との結婚生活ではさらに二人のお子さんをもうけ、生涯にわたってその森の中にあるその小さな家に住みつづけられました。チャック氏は、「60年経った今でも、ここに住める幸せを毎日のように感じていますよ。世界中の美しい場所を旅しましたが、我が家が一番ですね。」と、静かにおっしゃっていました。



人生の最期に


そんなチャック氏でしたが、去年の秋にこの世を去られました。お亡くなりになる数ヶ月前には、多くの人を招いた90歳のお誕生会が催されました。今思うと、あのお誕生日会はまるでチャック氏が生きているうちに開かれたお別れの会だったような気がします。国内外からいらしたさまざま人々がそれぞれにチャック氏との思い出を語り、ミュージシャン仲間の演奏で歌って踊り、笑い声の絶えない素敵なパーティーでした。


私たちはというと、チャック氏の人生の最期にほんの少しだけ関わっただけの立場で恐縮ですが、それでも彼の人生の集大成を垣間見れたことに、深い感謝の気持ちを持っています。黒人男性として、白人社会の中で差別や困難を体験しながら実直に働き、当時としては珍しかった混血結婚を貫いて若い世代へと道を開き、仕事も趣味も家庭も、夢中で過ごしてこられたチャック氏。


人の人生にはいろんな物語がありますが、チャック氏の物語に想いを巡らせるとき、「自分は、与えられた人生を一生懸命に生きれているかな?」と、ふと問いたくなります。また、「自分にとって意味のある豊かさを、大事にできているかな?」と、思いを巡らせたりもします。


春になり、いつもこの季節は散歩の途中で立ち寄っておしゃべりしてくださったチャック氏の姿が頭によぎり、とても寂しく感じると同時に、出会いとの不思議なご縁に感謝の気持ちを感じている今日この頃です。




 
 

 

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